日本語ー生成原理の解明

大和言葉はこうしてできた

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6.  トル・テ (取る・手)

『広辞苑』には次のような説明があります。(大野晋の説)
   トル【取る】 手と同源 
同源と言うのは曖昧な言い方で「手」から「取る」ができたのか、「取る」から「手」ができたのか明確にしていません。
私もこの同源説に賛成したいのですが、この両者は次のように「ツ」を媒介にして捉えるべきと考えるのです。
       ┌ トル(取る)
     ツ ┤
       └ テ  (手)
ツ→トルは、オツ(落)→オトル(劣) の語頭のオを取った形。つまり、ツ(付)に語尾を付し動詞語幹とするに際して、ツ→トと1音節動詞「ツ」の語幹を変化させたもの。
ツ→テは、ハツ(果)→ハテ(果)の語頭のハを取った形。すなわち、ツ(付)に名詞化の変化が起こった形。

ここでは、ツ→テの名詞化について少し説明しましょう。大野晋氏は、手の古形をタとみて、それにイ(i=名詞であることを明示する母音)が付いた(tai→te)という説明をしておられます。しかし手をタというのは被覆形(複合語の上の形)だからです。だから、タマクラ(手枕)、タオリ(手折)など複合語にしかあらわれないのです。

サケ(酒)は、サカヤ(酒屋)、サカモリ(酒盛)ではサカですが、これは被覆形だからでサカヤ・サカモリに古形が残っているわけではありません。サケ(酒)は、じつはサク(サカユ、サカルの語幹を作っている語で栄える意)の名詞なのです。酒そのものは本来キ(神酒のキ)なのです。

ハツ→ハテ(果)、ササグ→ササゲ(捧)などと同じ変化で、ツ(付)→テ(手)、サク(栄)→サケ(酒)が形成されていると考えられるのです。
結局、上表のように、足す・足る・取る・手は、いずれもツ起源と考えられるのです。

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[1]単純な語から多様な語が生み出される
[2]単純な語から多様な語が生み出される―2
[3]ヤマトコトバは膠着語である
[4]ヤマトコトバは膠着語である(例)
[5]膠着語尾を取って始原形を推定する
[6]トル・テ (取る・手)
[7]すーっ(と動く)の「ス」
[8]日本語生成原理―母音変化を伴う膠着を繰り返す

日本語の起源