日本語音の意味と中国語を比較すると下表のようになる。下表で「日本語」欄に書いたものは『大和言葉の作り方』に示した分類である。
意味的に類似性がある音…n、k、t、ts(日本語ではs)
意味的に類似性がない音…m、p
h・ng・l、w・yについては、音自体が相手側言語にない。
日本語との類似性の高いS音・T音・K音についての『大和言葉の作り方』の参考資料はこちら
中国語 | 日本語 | |
---|---|---|
n | ①柔らかい、しなやかな | ①流動・伸展 ②声・音 |
k | ①囲う・くむる・カバーする②殻・固い殻 |
①下る②くるむ③繰る④来る⑤重なる、上 |
t | ①叩く②平ら③止まる・集まる④突き通る | ①付着(付く、突く)②連続(継ぐ)③集積(集まる、積む) |
ts | ①窄む縮む②小さい③ぎざぎざ④集まる | |
s | ①吸う(収縮・集結・密度濃い) ②進む(進行・下降) |
|
s | ①小さい・細い | ③隙間を通す |
m | ①覆い隠す、隠れて見えない②生む | 一処で動く(ムズムズ、ゴソゴソ)、間(マ)、 回る、ム(身)、ムス(生) |
p | ①ペタン②ポキ③プッ | ①吹く(覆う、被せる、膨れる、吹く) ②振る(振り払う、開ける、端、間、渡る) |
h | ①大きく広がる | |
ng | ①ガヤガヤ、ゴツゴツ | |
l | ①するっと、スーッと、累々と②スースー | |
w | ①分く(脇、曲わだ、渡る、彫る、緒、男) | |
y | ①行く(湯、移る、遣る)②揺る、淀 |
日本語のK音は、語彙数が多く、じつを言うと一番意味的なまとまりを見つけにくい音である。
クダルのように「下」の意味を作る一方、カミ(上)、カカグ(掲)、カサヌ(重)のように「上」の意になったりする。固いや渇くのように、他の語との間に類似を見つけにくい語もあるのだが、中国語のK音にも「固(コ)」「渇(カツ)」などが含まれることは興味ぶかい。
なお、藤堂明保氏の漢字分類についてであるが、すべて正しいということはなく、いくつかの誤りは含むものと思われる。例えば、「裏(LEK)」の基本義を「すじ」とし、裏地にスジのある布地を用いたためとしているが、裏布がいつもスジ目の布地とは限らず、かつ裏のような語は衣服の発生より古いと考えなければならない。
日本語のウラ(裏)、ウシロ(後)のウについては、「ウ=連続、(本体から)続く」だと『大和言葉の作り方』で説明した。その立場から言えば、中国語においてはL音が連続を表しているように思われる。
**********
音と意味の関係の類似性と起源の同一性は、直接には結びつかない。しかし、中国語も日本語も単音に特別な意味を与え、それを元に語を作るという点では類似の言語であり、ともにユーラシア大陸に存在した単音節文化圏に属するとはいえるであろう。