基礎講座

アクセントの金田一法則

金田一春彦氏がアクセントについて述べた次の法則を金田一法則と呼ぶ。
「ある語が高く始まるならば、その派生語・複合語もすべて高く始まり、ある語が低く始まるならば、その派生語・複合語もすべて低くはじまる」
(出典)
金田一春彦「国語アクセント史の研究が何に役立つか」『日本語音韻音調史の研究』第三編1

平安末期の一種の漢和辞典である類聚名義抄などの、片仮名などの訓に声点が差されており、仮名の左上の声点は、上声(じょうしょう)と呼ばれて高いアクセントを表し、仮名の左下の声点は、平声と呼ばれて低いアクセントを表す。また、仮名の右上の声点は、去声と呼ばれて上がるアクセントを表し、仮名の左下やや上の声点は、平声軽と呼ばれて下がるアクセントを示すことが知られている。

今、アクセントを次のように表すことにする。
H(高く平らな拍) L(低く平らな拍) hl(高から低に下る拍) lh(低から高に上る)

手に関する語にアクセントは次のようである。(大日本国語大辞典による)
テ(手) LL(平安・鎌倉) LH(室町末)
~単音節語は上代には二拍で発声されたと考えられている。手はテエ。

タムケ(手向け) LLL (平安・鎌倉)
タナゴコロ(掌)  LLLLL (平安・鎌倉)
タスキ(襷) LLH (平安・鎌倉)
タモツ(保つ) HHL (平安・鎌倉)

手のアクセントはLで始まり、手向け、手な心(掌)のタもL始まりであり、同源とみることができる。タスキのタも手であろう。ところが、タモツ(保つ)のアクセントはHで始まる。タモツの語源は「手持つ」であるという語源説があるが、アクセントの上からは退けられることになる(タモツの語源はおそらく、タム(溜)→タモツである)。このように、アクセントが語源の判定に役立つわけである。ところが、
タオル(手折る) HHH (鎌倉)
というアクセントがわかっている。これは鎌倉時代のアクセントであるから、一応アクセントの変化があったものとみなすことになるが、不確定要素ではある。また、
タ(田) LL (平安・鎌倉)
であるので、タムケが田向けであったとしても判別性を持つわけではない。

金田一法則では、アクセントが日本語においていかなる役割をにない、どういう規則性をもって設定されているのかを明らかにしていない。タモツのタを、アクセントから手ではないと退けたが、あるいはこれは手であって、金田一法則自体が正しくないということも考えられるわけである。

なお、クル(暮)・クラシ(暗)・クロ(黒)の語尾r音部のアクセントが違うので、これは同源ではないという議論があったが、金田一法則で問題とされるのは、語頭音のアクセントであって語尾音は問題にならない。

しかし問題はアクセントが本質的にどういうものかが解明されなければならない。

 

日本語の起源