中国語ー音的起源

2.藤堂明保の単語家族論

藤堂は漢字を音と意味の共通性から223に分類した

藤堂明保(1915-1985)は、『学研漢和字典』の編纂者であり、字音が同じであれば何らかの意義の共通性があると考える「単語家族説」の提唱者である。氏の説は、『漢字語源辞典』(学燈社1965年)にまとめられている。

氏の単語家族論だが、例えば、「微」と「美」は漢字も異なり意味も違うが、両方ともに本来「小さくて見えにくい」意の語だという。「美」とは「微妙なもの」が本来の意義だったというのである。「微・尾・未・眉・美・没・勿・門・文・民」などの語が、「小さい、よく見えない、微妙な」の語義のグループに分類されている。

また、「すじ、すじめをたてる」という意味のグループがあり、これには「里・理・裏・吏・鯉・…」などの17の漢字が含まれるが、これは下図のように説明されている。

このようにして取り出された単語家族のグループは223であり、三千以上の漢字が223にグループ分けされている。また、漢字音は、先のビ(微・美)グループの場合ならば次のように音変化することが知られている。
  微:周mïƏr→六朝mïuƏi 呉音ミ→唐mbïui 漢音ビ→元wƏi→北京wƏi
  没:周muƏt→六朝muƏt 呉音モチ→唐mbuƏt 漢音ボツ→元mo→北京mo
しかし、氏はここから、次のように発音のタイプ(発音の祖型)を設定している。
  タイプ{MUĒR MUĒT MUĒN}
まとめれば藤堂は次のような223タイプを示しているということである。

   No.192  微・尾・未・眉・美・没・勿・門・文・民
タイプ  {MUĒR MUĒT MUĒN}
基本義 小さい、よく見えない、微妙な

この藤堂の仕事は、一見漢字の分類をしたように見えるが、漢字というのは中国語を表記したものであるから、これは本質的に中国語そのものの分類にほかならない。藤堂は古中国語の語彙を発音と意味によって分類してみせたわけである。

私は、藤堂の223分類をエクセルの表に書き出してみた。そして、頭子音によって並べ替えてみたのである。すると、明確な特徴が浮かび上がってきた。音と意味との間に明確な関連性を見出すことができたのである。中国語は、オノマトペ起源的な音に特定の意味を与え、それが元になって多様に変化して成立した言語であるということがわかったのである。

また、中国語祖型の音と意味との関係は、大和言葉のそれとかなり近いということもわかった。たんに同じようなオノマトペ音を用いているというばかりでなく、発想に類似性がある。例えば、窄むの「ス」という音は、古中国語ではTSに相当し、日本語・中国語ともに「窄まって小さくなる」意を持つとともに、「集まる」意を持つ。「集まる」というのは、花が窄む時に芯のところに花びらが集まるような動きということで、そんなところまで両言語が似ているのである。K音は「凹む・くるむ・囲む・殻」などの意から「固い・渇く」の意まで共通している。もちろん違いも大きく、子音の約半分はそれぞれ異なる意味だし、有する子音自体にも違いがある。 (本項のPDF=藤堂明保の単語家族論

次へ: 3.古中国語の音と意味)

日本語の起源