隠す・囲む・限る―これらの語には一見何の繋がりもありそうには見えません。まして「隠す」ことをなぜカクスと言うのかなどと問われても普通は困るでしょう。
じつはこれらの語は、カクからできた兄弟語なのです。
カク = 囲いをする
という語が元になっています。カキ(垣)はこの名詞形です。
隠ス・隠ル
この二語は、カクに動詞語尾ス・ルを付した語形です。つまり、「隠す」というのは目的のものを囲って見えなくすることであり、「隠る」とは相手から見えない囲いの中に入ることなのです。さらに発展してカクマフともなります。
囲ム・囲フ
これらはカクに動詞語尾ム・フを付した語です。カク→カコのようなo母音への変化は、
オツ(落) → オトス・オトル・オト(弟)
などと同じものです。じつは上代語には、カクム(囲)という語形も見受けられます。このことからカクムからカコムのような形の発達は奈良時代を遡るさほど遠くない時期だと推定されます。
限ル
カクをカキとした上で動詞語尾ルを付した語です。日を「限って」とか命の「限り」という「限る」から、今日私たちは「囲う」を意識することはありません。しかし、
カギル=その部分を囲うこと
なのです。カクを元に、カク(ス)、カコ(フ)、カギ(ル)など母音を変えて語尾を膠着し、多様な語を生み出しています。
このように普段は繋がりがないと思っている語の間にも起源的には同一の語から出ているということがあるのです。
意味的・語形的に関連を持つ語群を単語家族と言います。人間に祖先があるように、単語家族にも祖形があります。これから行おうとしているのはその祖形を明らかにする作業です。
[1]単純な語から多様な語が生み出される
[2]単純な語から多様な語が生み出される―2
[3]ヤマトコトバは膠着語である
[4]ヤマトコトバは膠着語である(例)
[5]膠着語尾を取って始原形を推定する
[6]トル・テ (取る・手)
[7]すーっ(と動く)の「ス」
[8]日本語生成原理―母音変化を伴う膠着を繰り返す