傘というと今日ではアンブレラ、つまりステックの上に雨避けの覆いを付けたものを思い浮かべます。しかし、そういう形のものは貴族の時代になって中国から入ってきたもので、それ以前はカサといえば簔笠のようなものだったでしょう。頭の上に「重ねる」ものだからカサなのです。
瘡蓋のカサ、カサ高いと言う時のカサなども同じ語で、本来の意味は「重なっているもの」です。それが、「カサがはる」とか「水かさ」のように物の外側さらには物自体の意に発展します。また、カサ(嵩)からカサブ(嵩)のような動詞も作られます。
同じように、カザル(飾る)というのも「重ねる」が本来の意味です。「飾る」は「きらびやかなものを付加する」の意味でわれわれは理解していますが、コトバそのものにはそういう情報は含まれていません。単に「重ねる」という語です。
カザルの他動詞がカザス。手をカザスと言うのは手を上にして重ねるようにするの意味です。
カサ・カサブ・カザル・カザス―ではこれらはカサを元にした語でしょうか。まず、次のような語形変化に着目しましょう。
┌アカル(明る)・アカス(明す)
アク(明)―┤
└アカ(赤)
同様に、カサ・カザス・カザルなども次のように考えられます。
┌カサ(傘)・カサ(瘡)・カサ(嵩)・カサブ(嵩ぶ)
カス ―┤カサヌ・カサナル(重なる)
└カザル・カザス
つまり次の動詞が元だと考えられるのです。
カス = 上にする
手枷・足枷という場合のカセという語も、カスに基づく語で、「(手や足に)重なるもの」ということです。
目次:
[1]単純な語から多様な語が生み出される
[2]単純な語から多様な語が生み出される―2
[3]ヤマトコトバは膠着語である
[4]ヤマトコトバは膠着語である(例)
[5]膠着語尾を取って始原形を推定する
[6]トル・テ (取る・手)
[7]すーっ(と動く)の「ス」
[8]日本語生成原理―母音変化を伴う膠着を繰り返す