マハス(回す)・マハル(回る)はマフを基にした語です。マフ(舞)は踊りではなくて本来回転の意でした。
同様の語形変化は日本語の中に多くあります。
カハス オトス
カハル オトル
これらの例の動詞語尾スとルは次のような機能を持っています。
ス = 他動詞化語尾(対象に働きかける動作)
ル = 自動詞化語尾(対象の状態)
さて、「足す」と「足る」も次のような関係があります。
タス = 対象に働きかける動作
タル = 対象の状態
つまりタスは他動詞、タルは自動詞であるわけです。だとするとタスが他動詞であるのは語尾スの機能、タルが自動詞であるのは語尾ルの機能といえます。ス・ルは一般に動詞についてその動詞を他動詞化もしくは自動詞化しています。
では、タス・タルの場合、動詞語尾ス・ルが付加した基の語はなんでしょうか。
元の語が動詞だとしたら、その動詞は「ツ」だと考えられます。ス・ルを付加する場合、マフ→マハ(ス・ル)、カフ→カハ(ス・ル)のように元の動詞の語幹をa(もしくはo)に変化させています。これと同じ変化で、ツ→タとなっていると考えられるのです。
今日、われわれは「付け足す」という言い方をします。これは、「足す」という動作が「付ける」という動作によって行われるという日本人の認識を示しています。
このようにタス・タルの元の語がツだと想定するのは、日本語の原則的一般的な語形変化であり、かつまたそう見ることが語義的にも合うのです。
[1]単純な語から多様な語が生み出される
[2]単純な語から多様な語が生み出される―2
[3]ヤマトコトバは膠着語である
[4]ヤマトコトバは膠着語である(例)
[5]膠着語尾を取って始原形を推定する
[6]トル・テ (取る・手)
[7]すーっ(と動く)の「ス」
[8]日本語生成原理―母音変化を伴う膠着を繰り返す